東京地方裁判所 平成7年(行ウ)66号 判決
原告
藤田和子(X1)
同
佐々木伸六(X2)
同
福山統(X3)
同
前川浩子(X4)
右四名訴訟代理人弁護士
藤沢抱一
原告
重松一義(X5)
被告
(府中市長) 吉野和夫(Y)
右訴訟代理人弁護士
小沢俊夫
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 本件都市計画事業が適法か否か、すなわち、右事業の内容が適法か否か(本件施設を本件敷地に建設することが適法か否か)、本件都市計画事業の決定手続(嫌悪施設である本件施設の設置に当たり、計画段階から建設に至るまでの間の手続、特に住民に対する説明及び合意形成の手法)が適法なものであったか否かについて
1 本件都市計画事業の内容が適法か否か(本件施設を本件敷地に建設することが適法か否か)について、
(一) 都市計画には、当該都市計画区域における都市計画法一一条一項各号に掲げる施設で必要なものを定めるものとされており(同条一項)、同項七号は、市場、と畜場又は火葬場を掲げている。都市施設については、都市施設の種類、名称、位置及び区域その他政令で定める事項を都市計画に定めるものとされている(同条二項)。
なお、火葬場等その他の処理施設に係る建築物については、一定規模以上のものについて、特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経て都市計画上支障がないと認めて許可した場合等を除いて、都市計画においてその敷地の位置が決定されているものでなければ、都市計画区域内においては、新築し又は増築してはならないこととされている(建築基準法五一条)。.
都市計画は、全国総合開発計画等その他の国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画及び道路、河川、鉄道、港湾、空港等の施設に関する国の計画に適合するとともに、当該都市の特質を考慮して、都市計画法一三条一項各号に掲げるところに従って、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならず、また、右の場合において、当該都市について公害防止計画が定められているときは、都市計画は、当該公害防止計画に適合したものでなければならない(同法一三条一項)。都市施設に係る都市計画を定めるに当たっては、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとの基準(同項六号)に従わなければならず、また、右基準を適用するについては、同法六条一項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき、かつ、政府が法律に基づき行う人口、産業、住宅、建築、交通、工場立地その他の調査の結果について配慮すること(同項一四号)を要するものとされている。
市町村が定める都市計画は、議会の議決を経て定められた当該市町村の建設に関する基本構想(法二条五項参照)に即し、かつ、都道府県知事が定めた都市計画に適合したものでなければならない(同法一五条三項)。
また、都市計画事業は、市町村が、都道府県知事の認可を受けて施行するものとされているところ(同法五九条)、都道府県知事は、右認可の申請が法令に違反せず、かつ、申請に係る事業が次の各基準に該当するときは同法五九条の認可をすることができる(同法六一条)。
(1) 事業の内容が都市計画に適合し、かつ、事業施工期間が適切であること(一号)。
(2) 事業の施行に関して行政機関の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合においては、これらの処分があったこと又はこれらの処分がされることが確実であること(二号)。
(二) 都市計画法一三条一項によれば、都市計画においては、必要な都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることを要するものとされているところ、当該都市施設が必要なものであるか否か、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するために、適切な規模がどの程度で、どの位置に設置するのが適切かについては、主として行政庁の専門技術的、あるいは政策的な判断に基づく裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。しかし、行政庁の有する右裁量権にも当然一定の限界があるのであって、右の基準を満たすかどうかの判断の基礎となる事実の認定に明白かつ顕著な誤認があり、あるいは、右基準を満たすかどうかの判断の際に考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮し、その結果、右基準を満たすかどうかの判断が合理性をもつ判断として許容される限度を超えていると認められるときには、当該都市施設に係る都市計画決定は、裁量権の範囲の逸脱又は濫用に該当するものとして違法になるものというべきである。
(三) そこで、本件についてみるのに、前記第二の一の事実に〔証拠略〕を併せると、次の事実が認められる。
(1) 基地の返還と基地跡地の利用
米軍は、太平洋戦争終結後、昭和二〇年九月、戦前、旧陸軍航空本部が陸軍燃料廠として使用していた府中市浅間町に所在する土地約六〇・八ヘクタールを接収し、同所に極東第五空軍司令部と在日空軍司令部を置き、同土地を使用してきた。その後、米軍は、我が国に対し、昭和三二年七月、基地の一部七三〇二平方メートルを、昭和四〇年七月に八〇四平方メートル、昭和四二年九月に五六九一平方メートルをそれぞれ航空自衛隊用地として返還した。さらに、米軍は、昭和四九年一一月に第五空軍司令部を横田基地へ移転し、昭和五〇年六月、基地跡地の大部分を我が国に返還した。
市議会は、昭和四七年一二月、米軍基地全面返還等に関する意見書を決議し、昭和四八年六月、基地対策特別委員会を設置した。その後、市は、市民へのアンケート調査や市民からの「市長への手紙」での要望等を考慮し、また、昭和四四年作成の長期総合計画を踏まえて昭和五〇年八月に基地跡地の利用計画を「平和の森構想」として策定した。この構想の中には、公園や小学校、中学校とともに市民斎場が含まれていた。右の「平和の森構想」においては、市民斎場の建設位置は、基地跡地の中でも住宅地寄りの西側の端の方にすることが想定されていた。
国有財産中央審議会は、昭和五一年六月、「米軍提供財産の返還後の利用に関する基本方針について」を大蔵大臣に答申した。その内容は、いわゆる基地跡地の「三分割有償払下げ方式」と呼ばれたもので、返還された基地跡地の面積をおおむね三等分し、地元地方公共団体等が利用する部分、国や政府関係機関等が利用する部分、当分の間処分を保留する部分に分け、原則として有償で処分するというものであった。
この国の方針に対して、全面無償返還を主張する市及び市議会は反対の意思を表明し、反対署名運動を展開し、九万人を超える署名を集め、昭和五一年九月と昭和五二年三月の二回にわたり、国会に請願した。この請願は、衆議院大蔵委員会に付託されたものの、審議未了(廃案)に終わっている。東京都と府中市は、昭和五二年五月、基地跡地の利用計画を促進するため、府中基地跡地利用計画連絡協議会(以下「連絡協議会」という。)を設置し、具体的な施設配置計画の検討を行なった。連絡協議会は都の職員、市の職員及び市議会議員で構成され、その後七回にわたり会議が開催された。
連絡協議会においては、中学校用地を先行取得することや市民斎場を基地跡地利用計画の図面には描くが、後記のとおり、市民斎場の建設については、反対意見もあることから、市民参加の中で時間をかけて決めていくこと等の方針を固めた上で、昭和五六年三月、公園、中学校、小学校、社会教育センター等の施設び設置を内容とした協議会原案を市案及び都案として、決定し、これを地元利用計画案として大蔵省に提出した。連絡協議会においては、市民斎場の建設位置は、基地跡地の中でも、将来的にも民有地に隣接することがないようにとの配慮から、周りが全部公有地になっているその中央部分とするのが好ましいとの結論が出され、本件敷地部分が予定地として選定され、その旨が地元利用計画案に記載された。
これに対して、昭和五六年五月、大蔵省は、基地跡地の利用計画について都及び市に国の処分方針を提示した。提示された国の処分方針案は、地元案を基本とし、公園、中学校、小学校、社会教育センター、市民斎場を認めつつ、都市整備用地とされた一三ヘクタール部分については保留地とし、また特に用途を定めない区域の一八ヘクタール分については自衛隊用地とするものであった。市は基地跡地利用の早期実現のためには国案了承もやむを得ないと判断して、昭和五六年七月都に回答をし、都も国案に同意する旨を大蔵省に回答した。国は、右処分方針案をもとに、国有財産中央審議会に諮問し、同審議会は昭和五六年一一月に府中基地跡地の処理の大綱について、国案どおりの答申をし、ここに基地跡地についての国の処分方針案が確定した。
(2) 葬祭場建設反対の請願と斎場問題の凍結
連絡協議会で基地跡地の利用の検討が進められている最中の昭和五五年一一月、基地跡地周辺住民は、市議会に対し、「府中基地跡地葬祭場建設に反対する請願」及び「基地跡地に市立葬祭場建設に反対する請願」を提出した。両請願は同年一二月に基地対策特別委員会に付託され、以降継続審査となった。
その後、継続審査となっていた反対請願二件の取扱いについて、昭和五七年二月に市長と請願提出者との話合いが開催された。両当事者は、当時、人口急増に伴う第三中学校のプレハブ校舎の解消が急がれていた背景があったため、基地跡地利用計画のうち、格別に反対のない中学校の建設や公園の整備等を先行させ、市民斎場の取扱いについては、将来周辺関係者を含む市民参加の協議会を設けて検討することとし、その旨を合意した。これを受けて、昭和五七年三月に右反対請願二件は取り下げられた。
(3) 市民斎場検討協議会の設置と答申
右反対請願の取下げがされた後、基地跡地利用計画は、実現へ向けて動き出し、基地跡地には、昭和五七年四月に浅間中学校が開校し、平成三年三月に小学校の建設から計画変更した府中の森芸術劇場が開館し、平成三年六月に本件公園が開設された。さらに、平成四年六月の段階においては、生涯学習センターの開館の見通し(平成五年五月開館)もついて、市民斎場を除く、すべての基地跡地利用計画が完了する見込みとなった。
右のような状況のもとで、市は、同月、市民斎場について、その必要性及び建設場所、施設内容、その他基本的なあり方について検討してもらうため、市民参加の検討協議会を設置した。委員は二五名で、その構成はPTA連合会長、むさし府中商工会議所会頭等市民各種団体代表五名、大学教授、都議会議員等学識経験者五名、周辺自治会長五名、周辺住民代表五名、公募五名であった。検討協議会において、委員各自は、市民斎場建設について、賛成、反対の立場からそれぞれ意見の表明を行った。検討協議会は、半年間の間に八回にわたり会議を開催し、同年一二月、市長に対し、「市民斎場は必要であり、場所については府中基地跡地が適切である。」との答申を反対意見を付記した上で提出した。なお、右答申の内容は市民広報で市民に紹介されたが、同広報にも反対意見が登載された。
市民斎場を必要とする意見の概要は、次のとおりであった。
ア 必要とする意見―必要性
<1> 最近の住宅事情では、自宅で葬儀を行うことは極めて困難である。現在、市内には高い葬祭費用で困っている人、場所がなくて困っている人がたくさんいる。
<2> 人生の最後を終わった人に、それなりの施設を低廉な金額で利用できるよう用意することは、行政として必要である。福祉の一環として考えるべきである。福祉でいう「ゆりかごから墓場まで」という言葉は今でも生きている。福祉の中で斎場は、人間の尊厳ということを考えたならば、最高位に位置するものである。斎場は、都市の持つべき機能として必要な施設であり、住民が安心して死を迎えられるためにも必要な施設である。
<3> 多摩葬祭場(日華斎場)は料金も高く、料金格差による等級までもある。また、広範な地域からの需要を受け入れているため、日延べされることもある。火葬は市の業務であり、責務である。民間施設は永続性、非営利性、公平性が確保されない。公会堂や会館を使う場合があるが、葬儀に使うとすぐに文化施設として利用できない場合もあり、明渡しのトラブルもある。また、すべての公会堂が利用できるわけではなく、これを新たに葬祭場として使うためには、市は一か所当たり相当の費用をかけなければならない。
<4> 将来の人口、死亡率は予測できないものがある。それに備え、市で斎場を設置すべきである。
イ 必要とする意見―場所について
斎場の場所について満たされるべき条件がある。<1>交通の便のよい所、<2>市の端よりは中心部に近い所、<3>周囲との調和が可能な所などである。これらの条件からみて、基地跡地は適当である。すなわち、基地跡地は、市の中心部に近く、道路も整備され、交通の便もよい。また静かな環境が保たれている。基地跡地は人家からの距離もあり、敷地内に植樹し、森を作り出す中で近代的な建物を建設するなど、周囲の環境との調和は十分可能である。
(4) 促進請願と反対請願
右答申が出された後、市民斎場建設に反対する住民から、平成四年一二月に「火葬場新設に代替する市民集会場・会館の改造と利用条例制定の請願」(代表者二九人署名三二九九人)が、平成五年二月に「浅間町一丁目(基地跡地)の斎場(火葬場付)新設計画に反対する請願」(代表者四名、署名四九二二人)、「浅間町一丁目(基地跡地)の斎場(火葬場付)新設計画中止の請願」(代表者一八人)及び「斎場予定地を市民の公園に推進する請願」(代表者二五名、署名四三一一人)がそれぞれ提出された。一方、市民斎場建設に賛成する市民から、「市民斎場建設促進に関する請願」(代表者一名、署名五万三二八九人)が提出された。平成五年三月の市議会において、これらの請願が上程され長時間の審議の結果、四件の反対請願については、いずれも不採択、「市民斎場建設促進に関する請願」が採択となり、法に基づき議長から市長あてに採択請願が送付された。
(5) 基本構想の策定
検討協議会からの答申や議会の促進請願採択の議決等を受けて、市は、平成五年四月から斎場建設の検討に入った。同年六月には、「入生の終焉を迎える葬送の儀礼を行うのにふさわしい施設とする。」「最新の技術、設備を導入した質の高い施設とする。」「市民優先を徹底する。」等を基本方針として、火葬設備を備えた市民斎場を基地跡地に建設すること等を内容とした市民斎場の基本的考え方をまとめ、これを市議会の担当委員会に報告をした。そして、右の基本的考え方に基づき、基本構想の策定作業を進め、同年八月、基本構想を決定し、これを、同月、担当委員会に、同年九月、市議会全員協議会にそれぞれ報告した。
基本構想においては、市民斎場の必要性について、次のような認識が示されており、その設置位置は本件敷地とされている。
ア 最近の住宅事情では、自宅での葬儀を行うことは、極めて困難な状況となっており、また、高い葬祭費用や場所の確保で困っている市民が増えている。平成二年の国勢調査によれば、府中市内で一戸建ての住宅に住む世帯は全体の四二パーセントであり、半数以上が集合住宅に住んでいる。こうした集合住宅の増加や冷暖房、風雨、駐車場など会葬者への配慮などから、今後ますます自宅以外の専用施設利用の希望が高まることが予想される。
一方、火葬場については、人口三六〇万人の多摩地域で、西部に公営施設が七か所あるのに対し、市を含む東部地域には民営施設が一か所あるのみである。平成三年度の火葬件数は、八か所合計で約二万件であり、その二分の一の一万件を市内にある民営施設が扱っており、このうち、府中市民は約一〇〇〇人であった。また、平成三年度の多摩地域の公営施設七か所の稼働一日一基当たりの火葬件数は〇・九九であった。ちなみに、改築、新設計画を進めている横浜市を除く政令指定都市の稼働一日一基当たりの火葬件数の平均は〇・九七件である。
また、火葬料については、公営施設は、一か所を除き、すべて市民(組合員)は無料である。府中市内にある民営施設の料金は、等級による区分けがされており、これは、都内にある民営施設も同様である。
イ 市の平成四年次(一〇月一日)の推計人口は二一万三五五四人で、一〇年前の昭和五八年の一九万六八五〇人と比較すると、約一・〇九倍になっている。一方、死亡者数は昭和五八年には八〇六人であったが、平成四年には一〇八四人となり、この一〇年間に三五パーセントの増加があった。府中市総合計画の目標年次である平成一四年には、計画人口が二三万人とされているが、仮に、厚生省人口問題研究所が平成四年九月に発表した「日本の将来推計人口」に示されている全国平均死亡率を当てはめた場合には、死亡者数は、約一九〇〇人になるものと推定される。
人口の高齢化とともに、今後ますます死亡する人の率が高まっていく中で、現在、葬儀をめぐって起こってくる様々な問題は、このままでは一層拡大していくことが予想される。府中市内には、手頃に利用できる専用の葬儀施設がないことから、やむなく、地域の協力の中で、公会堂などが利用されているが、予約者との明渡しのトラブルや翌日にも残るにおいの問題など解決すべき点が多く、こうした対応にもおのずから限界が生ずるものと考えられる。
火葬施設については、永続性、非営利性、公平性という大原則のもと、その整備は市町村の業務とされており、市を取り巻く、特に多摩地域の自治体にあっては、緊急にその対応を考えなければならない時期を迦えている。
ウ 市内に民間施設が存在するが、府中市民は、他市の住民に比べ、距離的に近いというだけであり、府中市民に何らの優先権もないという意味において、社会環境的な距離は、他市の住民と何ら変わるものではない。
エ こうした状況の中で、市にとっても、市民のための斎場整備は早急に解決しなければならない重要課題である。
また、基本構想においては、本件施設の運用計画として、全国的な傾向、火葬炉の維持、メンテナンスを考慮し、稼働日一日一基当たりの火葬件数を一件とする(そうすると、本件施設の火葬炉は四基であるから、年間の最大火葬可能件数は、稼働日数を三〇〇日として、一二〇〇件となる。)、使用料は、火葬料及び火葬に当然付随する待合室の利用については無料とする、式場については、自宅や寺院などで葬儀を行う場合もあり、需要度において火葬とは若干異なる面があり、有料とする、使用できる市民の範囲については、死亡時に住民登録のある者とする取扱いを原則とし、ただし、死亡者本人が市民でなく、葬儀を事実上行う遺族が市民の場合については、市民優先の例外として使用を認める、その際の使用料については、市外料金として設定する旨の計画が示されている。そして、本件施設の完成後、右運用計画に沿って本件施設を運用すべく、市においては、「府中市立府中の森市民聖苑条例」(平成八年府中市条例第五号)、「府中市立府中の森市民聖苑条例施行規則」(平成八年規則第二一号)が設けられている。
なお、市は、平成四、五年ころ、市民斎場の建設地として、多摩川流域とか、西府苗甫の辺に建設する可能性についても検討したが、建設は難しいとの結論に達している。
(6) 大都市における火葬炉の設置状況
平成四年当時において、人口一〇万人当たりの火葬炉設置数をみると、一三大都市の中では、千葉市が〇・八四で最も低く、最高は神戸市の三・五四となっている。東京都区部、多摩地区は、それぞれ一・二四、一・三〇で下位にランクされ、特に多摩東部地域は〇・七八であり、一三大都市との比較では最も低くなっている。
(7) 本件施設の建設と自然環境への影響
本件敷地は、米軍が使用していた時代には街路樹が整備されていたが、昭和五六年我が国に返還されて以来、放置されたままであったので、草木が自生し、雑然とした藪を形成していた。本件施設の建設に伴う植栽計画では、常緑樹高木一八五本、落葉樹高木一八五本、灌木類一万〇九三三株が植栽されることになっており、従前を上回る緑化が計画されている。
市は、帝人エコ・サイエンス株式会社(以下「帝人エコ・サイエンス」という。)に委託して、本件施設が建設された場合における周辺の交通量の変化について調査を行ったが、交通量がピークに達する午後五時から午後六時までの時間帯に葬儀が重なった場合の最大交通量を見込んでも、交通量飽和度は五三パーセントないし六五パーセントにとどまり、渋滞が起きるおそれは少ないとの調査結果が出ている。
また、法令上、斎場施設から発生する大気汚染物質の排出基準、臭気の規制基準は定められていないが、環境保全の立場から、斎場の環境保全目標値が厚生省のガイドラインとして定められており、その目標値は、大気汚染防止法、悪臭防止法、騒音規制法等に基づく環境安全基準よりも厳しい内容となっている。市は、帝人エコ・サイエンスに委託して本件施設の建設に伴う環境現況調査を行ったが、それによれば、市が本件施設に導入する火葬炉と同型式で、現在他で稼働中の火葬炉の運用実績では、右環境保全目標値を満足させる状況にあり、周辺環境への悪影響は出ていないことが確認されている。
(四) 右認定の事実によれば、市は、平成三年度の市の入口、死亡者数、住宅事情等からみた葬儀場、火葬場の需要、今後における人口、死亡率の推移から想定される火葬場の需要の見込み、市を含む東部地域には火葬場として市に民営施設が一か所だけあるのみであるところ、同施設は、多摩地域の平成三年度の火葬件数の二分の一の約一万件を右民営施設が扱っており、府中市民だけを対象としたものではないこと、一三大都市における火葬場施設の設置状況と比較して、多摩東部地域の火葬場の設置状況は一番低い水準にあること等を考慮した上で、市内に本件施設を建設する必要性があるものとの結論を出したものである。また、本件施設の建設場所に関しては、基地跡地の返還直後に市が立案した基地跡地利用計画の中において既に、基地跡地に市民斎場を建設する計画が盛り込まれていたものであり、市は、そのような歴史的経過を踏まえ、市民斎場の場所としては、<1>交通の便のよい所、<2>市の端よりは中心部に近い所、<3>周囲との調和が可能な所などの条件が満たされるところが適当であるとの考え方に立った上でも基地跡地は、市の中心部に近く、道路も整備され、交通の便もよいこと、また静かな環境が保たれていて、人家からの距離もあり、敷地内に植樹し、森を作り出す中で近代的な建物を建設すること等により、周囲の環境との調和は十分可能であろとの認識のもとに本件敷地をその建設場所として選定したことが認められる。そして、市は、本件敷地に本件施設を建設した場合の環境調査を行い、本件施設を建設しても、交通渋滞等の交通上の問題が起きるおそれは少ない、また、火葬炉四基を備えた本件施設を建設しても、厚生省がガイドラインとして定めている斎場の環境保全目標値は十分クリアーできるとの確認が得られたことから、本件敷地に本件施設を建設することを決定し、本件施設に係る都市計画決定、都市事業計画の認可を得るという手続を経たことが認められる。
右によれば、本件施設が必要なものであるか否か、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するために、その施設の適切な規模がどの程度で、どの位置に設置するのが適切かについて、市長が行った判断の過程に、その判断の基礎となる事実の認定に明白かつ顕著な誤認があるとか、又はその判断の際に考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮した過誤があるということはできず、本件敷地に本件施設を建設するとの本件都市計画事業決定はそれなりの合理性を有するものというべきであって、右決定が裁量権の範囲の逸脱又は濫用に該当するものとして違法になるものということはできない。
(五)(1) 原告らは、本件条例九条一項には、「火葬場の設置場所は、住宅等からおおむね二百五十メートル以上離れていなければならない。」と規定され、右の要件は、墓地・埋葬法一〇条による火葬場の経営等の許可条件とされているところ、本件施設は、都市計画事業として建設されるものであるが、本件条例の右規定の趣旨は当然尊重されるべきであるとし、本件施設は、中学校から一七〇メートル程度の距離に存在することとなるものであり、右規定に違反するものである旨主張する。
確かに、同法一〇条は、火葬場等を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨定めている。また、右規定を受け、東京都は、同法一〇条の規定による経営の許可等に係る火葬場等の構造設備及び管理の基準その他必要な事項を定める本件条例を設けているところ、本件条例九条一項は、「火葬場の設置場所は、住宅等からおおむね二百五十メートル以上離れていなければならない。」と規定している。しかしながら、同法一一条は、都市計画事業として施行する火葬場等の新設等については、都市計画法五九条の認可又は承認をもって、墓地・埋葬法一〇条の許可があったものとみなす旨規定しているのであって、都市計画事業として建設される本件施設については、本件条例の直接の適用はないものと解される。また、本件条例九条二項は、「火葬場内において当該火葬場の施設を増築し、又は改築する場合その他特別の理由がある場合で、知事が公衆衛生上支障がないと認めるときは、前項の規定は適用しない。」と規定しているところ、本件条例運用通知の九条関係においては、右の「その他特別な理由がある場合としては、地方公共団体が必要性及び公共性の観点から、火葬場を設置する場合等があげられる。」とされており、仮に、都市計画事業として火葬場を建設するについても、本件条例九条の趣旨が尊重されるべきであると解するとしても、本件施設は、市が必要性及び公共性の観点から本件敷地に建設することを決定したものであり、本件条例九条二項が適用される場合に該当するというべきである。
いずれにしても、原告らのこの点に関する主張は採用することができない。
(2) 原告らは、本件施設は、建設省の計画標準(案)において示された火葬場等の施設の位置選定についての条件に違反している旨主張する。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、建設省の計画標準(案)は、約三八年前に建設省が案として策定したものであり、案の段階にとどまる建設省の内部資料にすぎず、法的拘束力を有するものではなく、しかも、右案は、旧式の長煙突式の火葬炉を想定したものであると認められるところ、現在の火葬炉は、旧式のものとは全く異なる高度の技術を駆使した無煙、無臭、無公害型の設備となっているのであって、右標準案をそのまま本件施設に適用するのは妥当を欠くというべきである。
(3) 原告らは、本件都市計画事業の施行地域は住居地域に属しているが、当該地域には全く住居を建築することは予定されておらず、このように住居が建築できない状況のもとで当該地域で右事業を施行することは、都市計画に適合しないものである旨主張する。
しかしながら、火葬場を建設する敷地については、用途地域による制限はなく、本件敷地に本件施設が建設される結果、そこに住居を建築する余地がなくなるからといって、本件施設の建設が都市計画に反するということにはならない。原告らの右主張は失当である。
(4) 原告らは、本件都市計画事業は、周囲の都市計画と適合しないものである、すなわち、本件施設は、外形的に、本件公園の一角に存在する様相を呈しており、右事業が本件公園の施設と適合しないことは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件施設が建設される本件敷地は、本件公園の敷地には属しておらず、そこに本件施設を建設する計画が直ちに他の都市計画、すなわち本件公園という都市施設と適合しないということはできない。むろん、都市計画法の理念からすれば、本件施設は本件公園の環境と調和するように建設される必要があるが、既に認定したとおり、本件施設は、近代的な建物及び設備からなり、また、本件施設の建設に伴う植栽計画では、常緑樹高木一八五本、落葉樹高木一八五本、灌木類一万〇九三三株が植栽されることになっており、従前を上回る緑化が計画されていて、外部の人の目がとどかないようにするとともに、本件公園の環境と十分調和するように計画されており、かつ、周囲の本件公園が火葬場と周辺住宅地等との広範囲の緩衝地帯となっているのであって、実質的にみても、本件公園の施設と適合しないということはできない。
(5) 原告らは、本件都市計画事業の対象土地は、国有地であるが、前記住居地域の全部を使用するものであり、土地を強制的に収用することと変わりがないから、右事業は、土地収用法二〇条三号の規定を満たすものでなければならない旨主張する。
しかしながら、前記第二の一7記載のとおり、本件敷地は、国から無償で貸与されるものであり、市において、強制収用するものではないし、また、国から貸与を受けて本件敷地を使用することが、本件敷地の強制収用と変わりがないということは到底できない。原告らの主張は、その前提を誤るものであって、失当である。
(6) 他に、前記四の判断を覆し、本件都市計画事業の決定、認可を違法であるとすべき事情があることを認めるに足りる証拠はない。
2 本件都市計画事業の決定手続(嫌悪施設である本件施設の設置に当たり、計画段階から建設に至るまでの間の手続、特に住民に対する説明及び合意形成の手法)が適法なものであったか否かについて
(一) 市町村は、都市計画法一六条二項による場合を除くほか、都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとされている(同法一六条一項)。
市町村は、都市計画を決定しようとするときは、あらかじめ、建設省令で定めるところにより、その旨を告示し、当該都市計画の案を、当該告示の日から二週間公衆の縦覧に供しなければならない(同法一七条一項)。右縦覧があったときは、関係市町村の住民及び利害関係人は、右縦覧期間満了の日までに、縦覧に供された都市計画の案について、市町村に、意見書を提出することができる(同条二項)。
市町村は、議会の議決を経て定められた当該市町村の建設に関する基本構想並びに市街化区域及び市街化調整区域の整備、開発、又は保全の方針に即し、当該市町村の都市計画に関する基本方針を定めるものとされ(同法一八条の二第一項)、市町村は、右基本方針を定めようとするときは、あらかじめ、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとするとされている(同条二項)。市町村が定める都市計画は、基本方針に即したものでなければならない(同条三項)。
市町村は、同法一九条二項の場合を除き、都道府県知事の承認を受けて、都市計画を決定するものとされており、都道府県知事は、右承認をしようとするときは、都市計画地方審議会の議を経なければならない。
市町村は、都市計画を決定したときは、その旨を告示し、かつ、建設大臣及び都道府県知事に同法一四条一項に規定する図書の写しを送付しなければならず(同法二〇条一項)、建設省令に定めるところにより、右図書又はその写しを当該市町村の事務所において公衆の縦覧に供しなければならない(同条二項)。都市計画は、右告示があった日から効力を生ずるものとされている(同条三項)。
都市計画は、市町村が等都道府県知事の認可を受けて施行するものとされている(同法五九条)。右の認可を受けようとする者は、建設省令で定めるところにより、同法六〇条一項各号に掲げる事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない(同法六〇条)。
(二) これを本件についてみるのに、前記第二の一の事実に〔証拠略〕を併せると、次の事実が認められる。
(1) 住民説明会
市は、基本構想を策定した後、平成五年一〇月から周辺住民への説明会を実施した。周辺地域を四ブロックに分けて、同年一〇月二九日に浅間町地区、同月三〇日に天神町地区、同年一一月一日に緑町・府中町地区、同年一一月二日に若松町地区の説明会を開催し、担当助役及び担当部課長が説明に当たった。しかし、いずれの地区の説明会でも、冒頭から騒然とした中で、なぜ市長が出席しないのか、説明会の性格は何かなどの質問が相次ぎ、基本構想の内容をすべて説明するまでには至らなかった。そこで、市は、引き続き同月一六日に浅間町地区、同月一七日に天神町地区、同月一八日に緑町・府中町・若松町地区でそれぞれ説明会を開催し、市長自らが説明を行うため会場に出向いた。しかし、議論は噛み合わず、いずれも具体的な基本構想の説明には至らなかった。
(2) 条例制定の直接請求運動
その一方で、周辺住民からは平成五年一二月に、「東京都府中市条例制定請求書」および「府中市の条例制定に係わる請求代表者の証明書の交付申請書」が提出され、条例制定の直接請求の署名運動が開始された。平成六年二月には、八六五七名の有効署名を添えて、府中市公共施設の新設等に関する条例制定の請求が提出された。請求に係る条例の内容は、市長は市の公共施設を新設、改廃、変更する場合、事前に一キロメートル以内の住民に対して説明会を開催し、その了解を得なければ、工事に着手してはならないというものであり、市民斎場問題を念頭に置いたものであった。平成六年三月、市長は法の規定に基づき、右条例案を、その制定は適当でないとの意見を付けた上、右市議会に提案した。議案が付託された建設環境委員会では、修正案が提出されるなど、長時間の審査が行なわれたが、修正案、条例原案とも賛成少数で否決され、その後の本会議でも、委員会審査と同様、右条例案は賛成少数で否決された。
(3) 自治会等市民各種団体に対する説明会と市広報への記事の掲載
住民説明会の内容や条例制定の直接請求運動を新聞各紙が写真入りで大きく取り上げた事もあって、市民の市民斎場問題に対する関心は一段と高まり、市に問合せが相次いだ。そこで、市は、希望がある団体には市から出向いて説明をすることとし、平成六年一月から五月にかけて、合計一七回にわたって自治会や市民団体等への説明会を実施した。また、広く市民に市の考え方や計画の内容を知らせるため、平成五年一二月二一日号広報で基本構想を、平成六年二月一日号広報で市民斎場Q&Aを、同年四月二一日号広報で本件施設の基本設計図をそれぞれ掲載した。この一連の広報掲載を境に、市への苦情や問合わせは減少した。
(4) 都市計画決定等の手続
基本構想が策定されて方針が確定したので、市は平成五年九月から東京都と都市計画決定のための事前協議に入った。半年にわたる協議を経て、平成六年四月に都市計画法に基づく、住民説明会を開催した。案件は、<1>本件施設に係る都市計画の決定、<2>府中都市計画用途地域の変更(第二種住居専用地域から住居地域へ)、<3>府中都市計画高度地区の変更(第一種高度地区から第二種高度地区へ)についての三件であった。説明会には、周辺反対住民を含む約二五〇名が参加した。冒頭参加者の間で口論が起こるなど騒然とした場面もあったが、市の担当者において、右都市計画案を詳細に説明し、質疑にも全て回答し説明会を終了した。同年五月には右都市計画案を二週間市民の縦覧に供し、意見書を受け付けた。意見受付け期間中に提出された意見書は、火葬場に関して賛成意見三八六通、反対意見一七四通であった。右都市計画案の縦覧後、市都市計画審議会が開催され、右三件について原案通り決定する議決がなされた。右議決を受けて市長は、同年六月、右<1>及び<3>の都市計画決定についての承認申請書を都知事に提出し、同年七月に開催された都都市計画審議会において、右都市計画決定等を承認する旨の議決がなされた。一方、東京都から市に対し、府中都市計画用途地域の変更についての意見照会があり、市は、東京都の変更案を了承する旨回答をした。これにより、東京都は、府中都市計画用途地域の変更を決定し、建設大臣の承認を受けた。右<2>及び<3>の都市計画変更により、本件敷地の建ぺい率及び容積率は引き上げられることになった。
市は、同年一〇月に、都知事に対し、本件施設に係る都市計画事業の認可申請を行い、同年一一月に認可された。
市は、これらの手続きとは別に、同年八月には本件施設の建築確認申請をし、同年一一月に建築確認通知を受けた。
(5) 航空自衛隊府中基地との関係
斎場建設問題に関し、市と航空自衛隊府中基地との折衝も行われた。平成五年六月に基地司令名の公文書で、五点にわたる質問事項が提出された。主な質問内容は、平成五年度予算に計上された調査費は、斎場の必要性の検討を含むのが適当と考えるがどうか、本件条例で距離制限がされている二五〇メートル以内に隊員と家族の住宅があるが、それをどのように考えているかなどであった。また、同年八月には、新任司令官が市長に着任の挨拶をするため市役所に来庁した際、三点にわたる善処方の依頼文書が提出された。その内容は、基地運営への制約の心配、地下水源の汚濁の心配、建設予定地から二五〇メートル以内に住む隊員と家族への説明の困難であった。
その後、市では基本構想が策定されたことから、市は地元説明会に先立ち、同年一〇月、助役、担当部課長を基地に派遣し、その内容を基地副司令ほかに説明させた。その中で、自衛隊側から、斎場が出来た場合、基地の活動に対して、騒音その他の苦情があったのでは困る、公害の心配はないとのことだが、その根拠を示して欲しい、火葬炉の構造や公害防止の基準値が示されなければ、良い悪いの返事はできない、本日の説明は、地元住民としてではなく、公の機関として承ったと理解しているなどの話があった。
さらに、平成六年四月、市の担当助役及び担当部課長は、都市計画法に基づく住民説明会で使った資料をもとに、副司令、装備部長ほかに、説明を行った。また、自衛隊側から質問が出ていた地下水汚染の心配に関連して、火葬炉の構造について概要図で説明した。この中で、自衛隊側から、都条例にある二五〇メートルの距離制限について、将来公害が発生した場合の補償について、基地業務に関して発生する騒音の苦情処理について、文書で回答願いたいとの要望があった。これを受けて、市の担当部課長は、同年一〇月、基地を訪れて副司令ほかに文書で回答をした。その内容は、<1> 都条例の距離制限に関しては、公共団体が必要性、公共性の観点から設置する場合で、都知事が公衆衛生上支障がないと認めた場合は当適用しないとの見解が都の衛生局長から出されている、加えて、本件事業は都市計画事業として実施するので、墓地・埋葬法の規定により、本件条例に基づく許可があったものとみなされることになる、<2> 公害問題に関しては、その様な想定をしていないので、万が一不都合が発生した場合、他の公共施設と同様の扱いとなる、<3> 業務に関して発生する騒音の苦情については、市民から苦情が寄せられた時点でその都度協議したい、というものであった。自衛隊側からは、本日は文書を受領し、説明を聞いたと言うことで了解したわけではないとの話があった。
その後、自衛隊では総務課長が市役所に来庁し、市の回答文書の解釈についてという副司令名の非公式文書を持参した。市では担当部課長が応対に出て、内容は自衛隊側の一方的解釈が多く、了解しにくい旨を回答をした。同年一二月に新任の副司令が市長に挨拶をするために市役所に来庁したが、市民斎場に関する話は一切出ず、それ以降も自衛隊から市に対して、市民斎場に関する要望や意見が出されたことはない。
(三)(1) 右(二)及び前記1(三)認定の事実によれば、市は、平成四年六月、市民斎場について、その必要性及び建設場所、施設内容、その他基本的なあり方について検討してもらうため、市民参加の検討協議会を設置し、「市民斎場は必要であり、場所については府中基地跡地が適切である。」と答申を受け、検討協議会の答申及び市議会による市民斎場建設促進の請願の採択を受けて、本件施設に係る基本構想を策定し、これに基づいて本件施設に係る都市計画案及び本件施設の建設に必要な用途地区及び高度地区の変更のための都市計画変更案を立案し、都市計画法に基づき、右都市計画に住民の意見を反映させるための住民説明会を開催し、都市計画案の告示、縦覧の手続をとり、住民及び利害関係人の意見書を受け付けたこと、その後、市は、都知事の承認を受けた上、本件施設に係る都市計画等を決定し、その旨告示し、本件都市計画事業について都知事の認可を受けたことが認められるのであって、本件都市計画事業の決定手続は、都市計画法の定めるところに従って適法になされたものと認めることができる。
(2)ア 原告らは、<1> 本件都市計画事業の決定が性急にすぎる、<2> 本件施設の建設について、法的手続が完了しないうちに、多くの準備行為を先行させながら進めるという方法は、適当なことではない、<3> 市は既に平成六年度の予算編成において、本件施設の建設のための資金計画を盛り込んでいるが、何らの支出根拠もない段階で、予算を決定するという重大な問題をはらんでいる旨主張する。
まず、右<1>の点についてみるに、前記(二)及び前記1(三)に認定した事実によれば、市民斎場建設については、基地跡地返還後の昭和五〇年八月に策定された基地跡地利用計画に盛り込まれてから、様々な議論を経て、一時は白紙の状態に戻され、その後、検討協議会における検討を経て、基本構想が決定され、都市計画法上の所定の手続を経て、本件都市計画事業が決定をみるに至ったのであって、その間、市民参加の検討協議会、市議会、市民に対する都市計画案の説明会、市都市計画審議会、都都市計画審議会等でそれぞれの立場において十分とはいえないまでも相当の議論がなされたことが認められる。原告らは、本件施設を本件敷地に建設するという結論が先にあって、右の各手続がすべて形だけのもので、実質的な議論もなく、性急に本件施設に係る都市計画が決定されたかのようにいうが、右の認定に照らして、採用することができない。
次に右<2>の点であるが、本件施設に係る都市計画の決定、都市計画事業の認可がされる前に、右決定、認可がされることを見込んで、本件施設の建設のため相当な範囲の準備行為をすることは許されるものと解され、これを違法とする根拠はない。本件において、市が、右決定、認可がされる前に、相当な範囲を逸脱した準備行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
さらに右<3>の点であるが、地方公共団体の予算は、当該地方公共団体の一定期間における歳入歳出の見積もりであり、かつ、当該地方公共団体に対し、支出又は債務負担の権限等を与えるものであるが、本件施設に係る都市計画決定、都市計画事業の認可がされることを見込んで、あらかじめ本件施設の建設のために必要な予算措置を講ずることは許されるものというべきであり、これを違法とする根拠はない。
イ 原告らは、検討協議会の委員の構成が不公正である旨主張する。
しかしながら、検討協議会は、市長の諮問機関であって、右委員会の委員の人数、委員の選任をどのようにするかは、市長の決定するところにゆだねられているものと解されるところ、市長は、検討協議会の委員を二五名とし、市民の各種団体代表者五名、学識経験者五名、基地跡地周辺自治会長五名、周辺住民代表五名、公募五名を委員として選任しているのであって、市長が当初から本件敷地に火葬場を建設することに賛成の者が大半を占めるように恣意的に委員を選任したなど、右委員の選任において不公正があったことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。そして、前記1(三)に認定したとおり、検討協議会においては、市民斎場の建設に反対する者はその旨を表明する機会を与えられており、検討協議会が市長に提出した答申にはその反対意見も記載され、市民広報にも反対意見が登載されているのであって、これらの点を考え併せれば、検討協議会の構成が、市民斎場の要否等に関して広く市民及び専門家の意見を聴取しようとするその設置の趣旨を逸脱するような不公正なものであったということは到底できない。
ウ 前記(二)(1)に認定したとおり、市は、基本構想について、周辺住民に対する説明会を地域を四地区に分けてそれぞれ二回にわたり実施したものの、そこで基本構想の説明は十分には行われなかったわけであるが、それは、説明会に参加した反対住民が市側の市民斎場の建設を前提とした説明会には納得できないとして、冒頭から議論が噛み合わず、説明会場が混乱したことによるものと認められるのであって、市当局の説明会の開催手続に不当な点があったということはできない。
エ 原告らは、市が、当初から本件施設に火葬場を併設する計画をもっていたのに、住民に対しては、斎場を建設するといい、火葬場を建設することを隠してきた旨主張する。
確かに、前記(二)及び前記1(三)に認定した事実によれば、市は、昭和五〇年八月に策定された基地跡地利用計画において既に火葬場を併設した市民斎場を建設することを念頭に置いていたことがうかがわれるが、そのことは確定的なものではなかったし、その後、昭和五七年二月の市長と周辺反対住民代表との話合いにおいて、斎場の取扱いは火葬場を併設する必要性があるかどうかも含めて、将来市民参加の協議会を設けて検討し、その結果に従って、取り組むことが決められたのであって、その時点でも、火葬場の建設は未定の状態であったものである。その後、検討協議会が設けられ、火葬場を併設した斎場建設が必要である旨の答申がされたこと等を受けて、市は、火葬場を併設した本件施設の建設等の基本構想を決定し、これを発表し、それ以降、市民に対してその旨を住民説明会や市民広報で周知させるべく努力してきたことが認められる。なお、国語の辞書では、「斎場」とは、一般に、葬儀を行う場所を意味するとされているが、最近では、葬儀のできる施設を併設した火葬場の施設全体を指して斎場ということが多くなっていることは公知の事実である。
右のとおりであって、市が、市民に対し、殊更に火葬場の建設を隠し続けていたということはできない。
オ 原告らは、平成五年に市民斎場建設促進協議会の名称でされた「市民斎場建設促進に関する請願書」の内容は、火葬場を想定していないものであるが、右請願は、市の意向を受け、殊更に火葬場に触れず、市民を欺罔して署名させたものである旨主張する。
しかしながら、〔証拠略〕によれば、右請願書の中には、平成四年一二月二一日付けの市広報により、検討協議会で市民斎場等の必要性につき答申の提出があったことを知った旨、また、右答申の趣旨に沿い、市民斎場の実現を図っていただぎたく請願する旨が記載されているのであり、検討協議会が火葬場を併設した市民斎場の必要性について答申したことは右広報の記事から明らかであるから、右請願書の内容が殊更に火葬場に触れず、市民を欺罔するものであるとは到底いえないし、また、右請願が市の意向を受けてされたものであることを認めるに足りる証拠はない。
(3) 市長側が、住民の意見を全く無視して本件施設の建設を決定したとか、当初から火葬場を併設した市民斎場の建設の計画を持ちながら、住民に対しそのことを隠し続けたとかいう原告らの主張、並びにこれに沿う原告藤田和子の本人尋問における供述及び甲二七号証の32の陳述記載は、以上説示したところに照らしていずれも採用することができない。
二 本件請負契約の締結及びこれに基づく工事費の支出が適法であるか否かについて
1 原告らは、本件都市計画事業の決定、認可が違法であることを前提として、本件請負契約の締結及びこれに基づく工事代金の支出が違法である旨主張するが、本件都市計画事業の決定、認可が違法といえないことは前記一に説示したとおりであり、原告らの右主張は、その前提を欠き失当である。
2 原告らは、本件施設の工事の発注を行うに当たって実施された入札においては、市又は市長と入札に参加した業者間で談合が行われており、したがって、本件請負契約は、形式的には入札により契約の相手方を決定しているようになっているが、実質的には随意契約であり、違法なものである旨主張し、〔証拠略〕によれば、平成六年九月二六日開催の平成六年第三回市議会定例会において、矢部議員から右入札において談合が行われた疑いがある旨の指摘がされ、議論になったことがあることが認められ、原告藤田和子も、本人尋問において、そのことに言及している。
しかしながら、矢部議員の指摘は談合があった旨匿名の電話があったというだけであり、これを裏付ける客観的な証拠は提示されておらず、右の指摘だけから、右談合があったと認めることは到底できず、他にこれを認めるに足りる客観的な証拠はない。したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。
3 そうすると、本件請負契約の締結及びこれに基づく工事代金の支出が違法であるとする原告らの主張は、理由がないというべきである。
三 結論
以上の次第で、原告らの本件請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条も六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青栁馨 裁判官 増田稔 篠田賢治)